光輪学院シリーズ・神無月の憂鬱
「ぷっ」

「依琉!」

噴出した依琉を、すぐさま神無月は咎める。

「あの、それが何か?」

「いっいえ! それよりあんまり気にしない方がいいですよ。病は気から。ウチの祖母のお守りは良く効きますし、わたしの言葉も力を持っています。だから絶対大丈夫ですよ。自信持ってください!」

「あっありがとう!」

妻が満面の笑みを浮かべたところで、夫が戻って来た。

二人は笑顔で去った。

やがて休憩時間も終わり、生徒達や祖母は教室に戻った。

神無月は依琉を奥の小部屋へ案内した。

台所の隣の部屋で、教室からは離れている為、声は届かない。

「神無月のお祖母さん、お守りを作るの?」

「うん。お守りの袋はウチの母の手作りだけどね。お守りの中身を書くの」

神無月はイスに座り、自分の麦茶を注いで飲んだ。

「習字でね、願い事を紙に書いて、それを折りたたんで袋に入れるの。それを身に付けていると、その言葉通りになるってもんよ」

「なるほど。安全祈願とか恋愛成就とか、そういう言葉を書くんだ」

「そっ。祖母の力はそうやって発揮される。だからあの奥さん、これからは絶対に病気しない。お婆の他に、私の<言霊>も使ったんだもの」

「妻にとっては良いことなんだろうけど、夫にとっちゃ当初の目的からは完全に離れちゃっただろうね。気の毒に。今までの努力が全て水の泡だ」

楽しそうに笑う依琉を、今度は叱れなかった。

それは神無月も、そして祖母も気付いていたからだ。

妻は何の病気にもなっていないことを―。

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