1970年の亡霊
 彼等は全身を迷彩色の服で包んでいた。

 探照灯を浴び、目がそれに反射して不気味な光りを放っている。

 左舷甲板上で警戒監視任務に就いていた海上保安官、住江直義はその時の印象を、

「とても人間のようには思えなくて、ジャングルの木陰から獲物を狙う、夜行性の猛獣を想像した」

 と、後に語っている。

『いざよい』艦長、羽生忠は、記録用ビデオの録画を命じ、航海日誌へ遭遇日時と位置を書き込んだ。

 そして、どの辺りでこういう訓練をやりますといったような、事前通告を今後は徹底させて貰わなければならない、という一文を書き足した。

 今後もあのような訓練を事前通告無しで続けられれば、何時かは海難事故を招くのではないかと危惧したのである。


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