1970年の亡霊
「三山警視、キャリアとして輝かしい経歴と実績をお持ちの貴女にしては、この時の行動が私にはどうにも合点が行かんのです」

「輝かしい経歴…それ、皮肉ですか?」

「皮肉ではありません。事実として、言っているんですけどね」

 瀧本には、自分達所轄が蔑ろにされたという思いがある。自然、三山に対する言葉が、何かにつけ攻撃的になっていた。

「いいですか、死んだ三枝さんから貴女へ連絡が行ってから、現場到着まで三十分ちょっと時間が掛かっている。その間、充分時間があったのにも関わらず、何処にも事件発生の一報を入れていない」

 いつの間にか瀧本の口調が、被疑者を取調べる時のようなものに変わっていた。

「単なる職務怠慢だけじゃ済まなくなりますよ」

「どういう意味ですか?」

「消えた死体……本当に三枝さんが襲われての正当防衛だったんですかねえ」

「私の証言は信用出来ないとでも?」

「裏付けが無い話を鵜呑みにしているようでは、刑事なんて商売、出来ないでしょう、ねえ三山さん」

「裏付けがどうのこうのと言われるのでしたら、私と三枝君が銃撃された事実が、客観的状況証拠になるのではありませんか?」

 思わず声を荒げる三山を瀧本の冷ややかな視線が突き刺した。


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