1970年の亡霊
 官舎のロビーに入り、自分の郵便受けを覘くと、様々なDMに混じって一通の封書があった。

 請求書以外のDMは、まとめてホール脇のゴミ箱に捨て、差出人の名前を見た。

 ボールペンで書かれた律儀な文字を見て、三山は思わず、

「あら……」

 と声を上げた。

 三山はその手紙を手にし、幾分浮き立つような気持ちになりながら、三階の自室へと向かった。

 単身者用の部屋にしては広過ぎる位の充分な間取りの1LDK。

 女性の部屋にしては、特別それらしく飾ったりもせず、質素な家具。

 ワンピースの上着と黒革の鞄をリビングのソファに投げ捨て、急くように手紙の封を開けた。

 便箋七枚。

 びっしりと書かれた文字を彼女は慈しむように読んで行った。

 一旦、その手紙をテーブルに置き、三山は冷蔵庫から白ワインを取り出し、サイドボードにあった大きめなロックグラスを取って、なみなみと注いだ。

 よく冷えた白ワインが、彼女にとっての一番の安らぎ。

 今夜は、それにもう一つ安らぎを与えてくれる物が出来た。

 佐多和也からの手紙であった。


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