1970年の亡霊
 一時の危険な状態を脱した事から、三山は既に一般病棟である3Fの個室へ移っていた。

 皮肉なもので、葛西東署から刑事達が顔を見せなくなってから、日に日に三山の容態は快復に向かった。

 爆破テロの発生で、三山銃撃事件どころではなくなったのであろう。

 特にテロ後の治安悪化は深刻で、どの警察署でも人員不足に頭を悩ませていた。

 連日付き添いの為に顔を見せる三山の母親は、

「道の何処を歩いても、制服のお巡りさんだらけ。紙袋一つ持っているだけで、職務質問されるのよ」

 と言って、買って来た果物の袋を見せた。

 病院は完全看護だったから、消灯時間になると付添い人は皆帰って行く。

 この夜、三山の母親はいつもより早い時間に帰る事にした。

 消灯時間までは、まだ一時間ばかりあるが、溜まっていた家の事をしなければと思ったのだ。それに、余り遅くなると夜道が物騒だ。何しろタクシーも捉まらなくなる。

 娘の容態ももはや心配は要らないという安堵感もあった。

 待合室前のナースセンターを通り、エレベーターへと向かった時、背の高い男とすれ違った。

 こんな遅い時間に面会者かな、と思いながら三山の母親はエレベーターに乗り、1Fのボタンを押した。




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