1970年の亡霊
 手にしたケーキの箱を揺らさないように、両手でしっかりと持ちながら、加藤は小走りに病院を目指した。

 何か見舞いの品をと思い、ケーキ屋に寄ったのだが、お陰であれこれ迷っているうちに来るのが遅くなってしまった。

 何とかぎりぎり面会時間に間に合いそうだ。

 ただでさえ汗かきな加藤は、玉のような汗を額に浮かべながら正面玄関へ駆け込んだ。

 警備員が加藤の姿を見て、

「面会時間は後三十分程ですよ」

 と声を掛けた。

 エレベーターのボタンを押すと、丁度一台降りて来た。

 扉が開くと、そこに三山の母親が乗っていた。

「こんばんは」

「あら、確か……」

「加藤です」

「お世話になりながら、ろくにご挨拶もせず申し訳ありません。母の幸恵です」

「いえ、こちらこそ」

 母親の幸恵は、そのまま加藤を案内するかのようにエレベーターへ加藤を招き入れた。

「お母さん、帰られるところだったのでは?」

「ええ。でも、帰ってもやる事ありませんし。せっかく来て頂いたのですから」

 エレベーターは二人を乗せて再び3Fへと昇った。
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