1970年の亡霊
 怪我の快復が進むと、一日中ベッドで横になっているのが却って辛くなる。

 母が帰ってしまうと、話し相手も居なくなってしまうから、退屈で仕方が無い。

 枕元に置いてあったケータイ電話に手を伸ばし、三山は加藤のメールアドレスを検索した。

 本文を打ち込んではみたものの、読み返してみると、事件の事ばかりを書き込んでいる。

 事件の事は確かに気になるけれど、本当はそんな事ではなく、もっと違う事を書きたかった筈だと思い直し、途中でメールを消去した。

 改めて書き直す。が、今度は何をどう書いて良いのか、文章が思い浮かばない。

 大きく溜息をつきながら、三山はケータイ電話を枕元に戻した。

 カチャリとドアのノブが回る音が聞こえた。

 看護師の巡回だろう。

 だいぶ快復したとはいえ、点滴はまだ続いている。

 早くこの針を抜いてくれないかな……

 恨めし気に、ぶら下がった点滴のパックを見上げた。

 と、物思いに耽っていた三山の五感が、危険な空気を感じた。

 振り返る間も無く男の身体が飛んで来た。

 三山は咄嗟に身体を捻り、枕を楯にして反対側へ転がった。

「キャーッ!」

 転がった拍子に点滴の針が抜け、激痛が走った。
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