1970年の亡霊
前略。

 ずっとご返事もせずに申し訳ありませんでした。

 手紙を頂いたのは、昨年の秋頃でしたから、半年以上もご無沙汰をしていた事になります。

 裁判の時には本当にお世話になりました。早くお礼をと思っていたのですが、自分の気持ちがうまく整理出来ず、気が付けば年を越して居りました。

 残りの刑期も半年足らずとなり、このところ所内で様々な面接がありました。尤も、私の場合は仮釈放の取り消し分を務めている関係から、満期出所になる事は間違いありません。

 面接というのは、出所後の生活に付いてとかの話が殆どで、今後再び犯罪を犯さないように生きて行くにはどうすべきか、といった話もして頂きました。

 私としましては、正直なところまだ何をどうすべきかはっきりと心が定まっていない部分があります。

 それは、一言で言えば自分が上手く社会に適応出来るのかという不安の裏返しでもあります。

 夢とか希望というものを忘れてずっと逃げ回って来た私です。その私が、いったいどう明日に希望を見出せと言うのでしょうか。

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