1970年の亡霊
 三山の気持ちは判らないでもない。

 たった一度の失態を咎められ、自分が育て上げたサイバーパトロール課を追われた形になった。

 その失態も、決して失態と呼べるものではない。刑事としての信念に基づいての行動だった。

 警察という組織の中で、その信念が受け入れられなかっただけなのだ。

 彼女には、自分が育て上げたサイバーパトロール課への思い入れがあった。

 それだけに、元の部下が何者かに狙われ、命を落としてしまった事に、より強く思うところがあるのだろう。

「今のサイバーパトロール課は、下山課長の後を受けて、手代木さんが代行している……」

「……?」

「君も知っているだろ?」

「あの手代木さん?」

「ああ。総務部監査局との掛け持ちだがな。うちだけの単独捜査というには、やはり無理がある。だが、あの手代木さんなら、この話を持って行けば乗り気になるんじゃないか」

 自分の知らない名前が出た事で、加藤は、

「誰なんだ?」

 と、そっと三山に尋ねた。

「私をこの世界へ引っ張り込んだ人……」

「手代木さんからの指示なら、うちの課長もいやとは言えない」

 三山は、出世欲でギラついた手代木の顔を思い浮かべた。
< 168 / 368 >

この作品をシェア

pagetop