1970年の亡霊
「ただ、幾ら手代木さんが食い付き易い人だとはいえ、それなりに納得して貰えるものを提示しなければならない。特に、自衛隊とかが相手になるかも知れないとなればだ」

「それは、防衛省が相手になるかもって事だからか?」

 加藤の疑問に河津は、

「事件に直接関わっているのが、OBだけならそう問題は無いさ。現役が一人でも絡んでいれば、揉み消すとか、蜥蜴の尻尾切りとかをして来る可能性はある」

 と言って、

「君達が考えているように、一連の事件が、全て何かしら繫がりがあって、組織的に何かの犯罪を企てていたと仮定しよう。その企てに、どの辺りまでの幹部クラスが絡んでいるか……」

 語尾を濁したまま押し黙ってしまった。

「単に現職の自衛官が殺人を犯したとかなら、特に問題になる事はねえ…と、そう言いたいのか?」

 加藤が焦れて河津に食い付いた。

「手代木さんを動かすには、またとない餌ではあるがね。十五年前のカルト宗教事件の時に、長野で一回失敗しているから、ここらで大きな勲章を取らなきゃと思っているだろうし……」

 はっきりとした事は言わず、河津はここでも言葉を濁した。

 三山は、そんな河津をもどかしい思いで見ていた。

「で、貴方は結局どう動いてくれるの?」

「君達がこれならば、というものを出す事だな」

 そう言って河津は病室を後にした。
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