1970年の亡霊
 河津が出て行った後も、三山は暫く押し黙ったままでいた。

 加藤が見かねたように、

「何もあのヤローに頼らなくたって、俺達だけで何とかなるさ」

 と声を掛けた。

「本当に、私達だけでどうにかなると思います?」

「まあ、それは……」

「二年前の私達だったら……」

「それを言ったら何も始まらないぜ。黙って指を咥えて、病院のベッドで寝てろって話になる」

 加藤の言葉に、三山は、はあと深く溜息を吐いた。

 それを見て、余計な事を言ってしまったかなと、加藤は後悔した。

「それにしても、あのヤロー何様なんだ。同期か何か知らんが、階級も役職もあんたの方が上だろうに、口の利き方も知らねえのかな。あんたの事、君だとかぬかしやがって…て、考えてみたら、俺も人の事言えねえな。あんた、なんていつも馴れ馴れしく呼んじまっている」

 わざとおどけた物言いで加藤が笑った。

 いつもなら、ここで加藤の言葉尻に乗って、そうね、の一言も言いそうな三山であったが、無言のまま布団の中に潜り込んでしまった。

 腰を上げるしかなかった。

「さて、ぼちぼち俺も病室に戻るよ」





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