1970年の亡霊
　病院からの帰りは、運よくタクシーが捕まえられた。

　パトカーと警察官だらけの国道を渋谷までノンストップで走らせた。

　後部座席で目を瞑りながら、河津はもう少し彼女の立場に沿った言葉を掛けて上げるべきだったかなと、思っていた。

　だが、現実に今の自分にはどうする事も出来ない。

　いや、実際は動こうとすれば動ける。公安捜査官は、他の部署の捜査官に比べ、比較的自由に捜査に当たれる。

　理由は、捜査対象が国際テロ組織や極左グループ、組織暴力が主だからだ。

　つまり、事件が起きてから捜査に当たる事よりも、未然にそれらを防ぐ為に活動をする。

　他の部署のように、二人とか三人で班を組む事もあるが、単独で行動する事もある。必要とあれば、潜入捜査も辞さない。

　その辺は麻薬Ｇメンにやり方が似ている。

　タクシーが渋谷の官舎へ着く頃には、河津の腹は決まっていた。

　そういえば、彼女も同じ官舎に住んでいるが、今迄顔を会わせた事は無かったなと思い返した。

　ふと、河津は一ヶ月前の事を思い出した。彼女は二度、命を狙われたと言っていた。いや、そうじゃない。正確には三度なのだ。

　川合俊子が亡くなる前に、三山百合は退庁後の夜、官舎の直ぐ近くで暴漢に襲われたのだ。その時は、単なる通り魔による犯行だと思われていた。彼女もそう思っているのか、この時の件は別と捉えている。聡明な彼女にしては、どうしてこの件を別と考えたのであろう。





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