1970年の亡霊
 最後の仕事を請け負った日以来、星野は倉庫のような場所へ監禁されていた。

 ここには、自分以外にも十人ばかり押し込められていた。

 女性も居て、その中には中国人らしき者も居た。

 食事はきちんと与えられていたが、一歩も外には出して貰えず、テレビも無い。

 ケータイ電話も取り上げられ、丸っきり外とは隔離されてしまった。

 SIMインターナショナルの社員は見当たらず、代わりに屈強な男が二十四時間交代で監視をしていた。

 最初のうちは、監視役に文句を言ったり喚いていた者も居たが、今では皆諦めの境地になっている。

 四六時中閉じ込められていると、様々な噂が飛び交うようになった。

 このまま山奥の工事現場に送られるとか、マグロ船に売り飛ばされるといった類の噂が主だった。

 監禁されていても、皆殺されるとは思っていない。

 皆、何かしら人生を諦めて来た人間達だ。

 殺されるなら、とっくにそうなっている筈だという思いがある。

 又、きちんと食事を与えられている事で、そういう心配をしていないのだろう。

 そんな中で、星野は一人の若い女性と親しく話すようになった。

 彼女は名前を倉田真理恵と言った。

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