1970年の亡霊
 情緒不安定になってもおかしくない状況の中で、彼女は終始落ち着いていた。

 星野がその事を言うと、

「なるようにしかなんないじゃん」

 と、達観したような言い方をした。ただ、本人はとっくの昔に人生を諦めているから、傍目には落ち着いて見えるのだろうとも言った。

「だけど心配じゃない?人里離れた工事現場に送られたら、俺達男共は重労働させられて、女はその男達の慰み者にされちゃうんだぜ」

「慰み者?」

「ようするに、SEXの相手とかさ」

「別に平気だよ。あたし、ずっと風俗やってたから、そういうの何とも思わないもん。ただマンは勘弁だけどね」

「まあ、いつかは出れるんだろうけれど、やばいのは臓器を売られちゃう事だな」

「そういう話なの?」

「噂だけだから判らないけど、前にネットでそういう事があるって読んだんだ。フィリピンとかに売り飛ばされたりとかだと、命を落とす事もあるって」

「臓器を取られちゃうのはやだな。それならまだ、ただマンの方がマシ」

「俺はマグロ船もやだな。泳ぎが苦手だから、山奥のダム工事とかの方がいいや」

 まるで他人事のように話す二人。だが、それはこの二人だけではなかった。

 監禁されている全員が同様の諦めを抱いていた。

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