1970年の亡霊
 オリーブドラブ色(濃緑色)に塗装された兵員輸送カーゴ三台が、小隊長である柿本二尉を乗せた装甲ジープを先頭に駐屯地を密かに出発した。

 一台の兵員輸送カーゴには、一個分隊十二名が分乗していた。

 後部荷台に向かい合わせで座った隊員達は、身動ぎもせず、息を呑んでいる。

 迷彩服にヘルメット。防弾ベストには、手榴弾が六個ぶら下げられ、89式自動小銃のマガジン(二十七発装弾)が四本装着されている。

 両手で抱えている89式自動小銃は、5キロに満たない重さとはいえ、一人当たりの装備重量は優に十キロを超える。

 それだけではない。隊員によっては、分隊支援火器であるミニミと呼ばれる軽機関銃を持つ者もいるし、グレネードランチャーを背中に担いでいる者も居た。

 別装備を担当している者は、通常より更に5キロから10キロ近く負担装備が増えるのだ。

 野戦部隊ではなく、対テロ急襲部隊だから、通常よりも装備を軽くしているとはいえ、普通の人間ならば、これだけの装備を担ぐと走るどころか、歩行もままならない。

 だが、彼等は全員が全国の部隊から選抜された隊員達だ。

 完全武装のままで百メートルを十五秒台で走り、五十メートル圏内なら、動く標的であろうとも確実に撃ち貫く能力を備えている。

 彼等は、命令に何の疑いも持たず、その能力を発揮するであろう。その為に、厳しい訓練に耐えて来たのだ。

 カーゴのスピードが緩んだ。緊張が更に高まって行く。

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