1970年の亡霊
『只今入ったニュースによりますと、昨夜八時過ぎ、千葉県習志野市の山中で、自衛隊対テロ特殊部隊が、一連の爆破テログループのアジトを急襲、激しい銃撃戦の末、テログループは自爆、全員死亡が確認されました。尚、現場跡から発見された死体の一部から、北朝鮮の工作員と思われる人物が浮かび上がって居ります。詳しい事は、この後午前七時のニュースでも放送致します』

 習志野のテロ組織アジト急襲に関する第一報をテレビ等で知った国民は、自衛隊に喝采を送った。

 テレビ番組は、終始特番でこの事を流し続けた。

 ワイドショーのコメンテーター達は、テロの恐怖にいち早く対処行動を起こした政府を讃えたが、中には、文民統制の原則から逸脱した自衛隊の違法行動だと発言する者も居た。

 その後の詳しいニュースで、アジトとして使われた倉庫は、主に北朝鮮へ自動車の中古部品を輸出している会社が、二年前迄所有していたものと判明。更に、現場から北朝鮮製の缶詰や冷凍キムチのパックが発見された。

 この事で、連続爆破テロは北朝鮮の国家的テロだという印象を、全国民が疑わなかった。

 当然の如く、北朝鮮は即座にこれを否定したが、過去にもラングーン爆破や大韓航空機爆破という前科があるだけに、誰も否定の言葉を信じなかった。

 従来、北朝鮮とは友好国であった中国までもが、大使館を爆破された為に、珍しく非難声明を出した。

 自爆した一味の遺体を調べた結果、以前より公安当局からマークされていた北朝鮮工作員である事が明らかになると、野党は政府に対し、北朝鮮へ国家賠償を求めるべきであると、強行に迫った。



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