1970年の亡霊
 柏原は納得の行かない表情でニュース番組を観ていた。自分達がずっとマークしていた李哲男の遺体の一部が発見されたからであった。

 柏原は、このニュースが報道される前に、回収された遺体の一部というものを確認しに行っていた。

 深夜の零時過ぎに、いきなり電話で呼び出された場所は、陸上自衛隊習志野駐屯地内に臨時で設けられた検死所であった。

 遺体の一部というのは、李の頭部であった。

 爆破で首が引きちぎられたようだが、他の腕や足に比べて比較的きれいな状態だったのが意外であった。もっと焼け爛れているかと思ったが、顔半分だけが黒く焼け焦げているだけ。はっきり李だと確認出来る程、きれいな状態だった。

 李の他にも、上半身だけとなった洪明甫の遺体も確認させられたが、やはり比較的きれいな状態だった。尤も、確認出来るだけのきれいな状態だからこそ、こうして自分が呼ばれたのだろうと思い直した。他の遺体は、その殆どが黒く焼け焦げていたり、確認出来ない位バラバラであったからだ。

 柏原が納得行かないと思った理由は、別にあった。

 マークしていた李の消息を追い続けているうちに、ある身許不明死体が、彼ではないかという調査意見書を書き上げていた途中だったからだ。

 その身許不明死体には、李だと裏付ける身体的特徴が幾つも一致していた。だが、その不明死体には首が無かったのだ。しかも、死体が発見されたのは今から三ヶ月以上も前。

 自分達が李だと思っていた死体は、別人であった……

 本当に?咽喉に引っ掛かった小骨のように、柏原の腹の中はモヤモヤしていた。

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