1970年の亡霊
 公安部の部屋へ戻った山井は、席に着くなりぼやき始めた。

「たまらんよなあ。しかし、自衛隊の山猿達めが、災害出動の指令しか出ていないというのに、対テロ部隊だと?大体が、捜査権を持たない連中が、何故テロリストのアジトを探し出せたんだ?おかしいだろ?お陰でこっちは総監にどやされるし…ったく」

 山井は相当腹立たしかったのか、庁舎内は全面禁煙であるにも関わらず、怒りを抑える為に煙草を吸い始めた。

 灰皿など無いものだから、柏原は咄嗟に自分の携帯吸殻入れを差し出した。

「北の連中が爆破テロの実行犯という事なら、うちが挽回出来るチャンスはある訳だ。どうだ柏原、これまでマークして来た人間を根こそぎパクッてしまったら?」

「お言葉を返すようですが、私にはまだ北の犯行だとは思えないのです」

「おいおい。アジトから李や洪の死体が出たんだろ?しかもお前自身が確認しているじゃないか」

「確かに死体の一部は、二人のものでした。長年追って来ましたから、見間違いはありません。ですが、冷静に考えてみて下さい。彼等がテロの実行犯なら、何故中国大使館まで狙ったのでしょうか。どう考えても理由がありません。爆破テロの数週間前には、わざわざ主席が北京へ行き、後継者の話までしているんです。この先、最友好国としての関係をより強固にする事はあっても、敵対行為に走るなどとはどうしても思えません」

「ならば、テログループは別に?」

「その可能性は、あります……」

 そう口にした事で、柏原の疑心は寧ろ確信へと変わった。



< 185 / 368 >

この作品をシェア

pagetop