1970年の亡霊
 課長室を出た柏原は、偶然エレベーターの前で河津と顔を合わせた。

 同じ公安外事課に属していながら、二人は余り庁内で親しく顔を合わす機会が無かった。

 普通の捜査課ならば、捜査協力も含めて割と頻繁に横の交流はあるのだが、公安の場合は、ある種の秘匿性を備えた部署であるだけに、それぞれのセクションが独立独歩といったスタイルを取っている。

 柏原と河津は、入庁時期こそ二年柏原の方が早いが、公安への配属は共に七年前で、公安部の中では将来の局長候補に挙げられていた。

 又、七年間もの間互いに公安部で任に就いているが、セクションは一度も一緒になった事は無い。

 だが、河津がテロ対策課に配属される前の主任は柏原が勤めていたし、柏原が外事課で最初に配属されたのが北朝鮮セクションだった。

 このように二人は配属先がクロスされていた事もあり、他の部員よりかは情報交換等で顔を合わす事があったが、それでも月に数回程度だ。

「よう」

 先に声を掛けて来たのは柏原の方だった。

「そっちもお目玉か?」

 足を止めた柏原が、右手の親指を立てた。

「いえ、うちの課長はぼやき専門ですから、山井課長のように雷を落としたりはしません。その代わり、皮肉はたっぷり言われましたがね」

 河津の言葉に苦笑いを浮かべた柏原が、

「少し、時間あるか?」

 と耳打ちをして来た。



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