1970年の亡霊
 柏原の用が、かなり脂っこい話になりそうだというのは、普通の脳ミソを持っていれば判る。

 河津にしても、柏原と話をして損する事は無い。

 これまでもそうだった。互いに持っている情報を交換し合い、自分の利益へと変えて行く。勿論、多少の駆け引きは必要とするが。

「いいですよ」

「外でも構わないか?」

「ならば、一緒に出ない方がいいですよね」

「ちょっと歩くが、日比谷宝塚の隣に古いレンガ造りのビルがある。そこの地下一階に、オスカルという喫茶店がある」

「オスカル、ですか?」

「この辺りの店じゃ、どんな奴と顔を合わすか判ったもんじゃないからな。そこなら、100%誰かとバッタリなんて事は無いから心配要らない」

「じゃあ、十分後に出ます」

「先に行ってるよ」

 会話が終わったのと同時に、エレベーターが停まった。

 柏原はそのまま下りエレベーターに乗り、河津はわざと乗り過ごして上りエレベーターを待って最上階まで行き、降りずにそのまま下った。

 庁舎を出、日比谷公園の遊歩道を使った。遠回りだが、河津の計算だと丁度十分差位で待ち合わせ場所へ着く筈だ。

 いつもなら、宝塚劇場では秋の東京公演が催され、ファンで賑わっている頃なのだが、入り口に立てられた無期限延期の看板だけが虚しく目立っていた。


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