1970年の亡霊
 オスカルという店は、やたらと目立つ外観をしていた。

 そこが、宝塚のファン達が足繁く通う場所であるとは、河津も知らなかった。だから、外観だけでなく店内もそれ以上に派手な造りをしていた。

 余程のファンでも無い限り、まず間違い無く男の客は入らないだろう。

 考えたものだな……

 ただ、これでいつものように宝塚公演でもあった日には、むさい男が二人密談していたら、逆に目立つ事この上なかったであろう。

 柏原は一番奥のボックス席に居た。店内に客は彼だけだった。

「すまんな」

「よくこんな店、知ってましたね」

「一回だけ、女房に付き合わされてね。そこに貼られている男役の大ファンらしい」

 そう言って、壁に貼られた特大ポスターを指差した。

「余り長い時間空けていられない。余計な話は抜きで行くぞ」

「はい」

 注文したアイスコーヒーに手を伸ばす間も無く、柏原の話は始まった。

「習志野の件だが、テロ対策課きっての切れ者である君の見解を聞きたいんだ」

「私の、ですか?」

 予期していた通りの話になったと、河津は思った。

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