1970年の亡霊
「10.1テロに関しては、そっちがメインで動いていた訳だろ?そのテロ対策課が、北を実行犯とマークしていた話は一言も流れていなかった。それがだ、突然振って沸いたように奴らの仕業という事になり、自衛隊が片付けてしまった。うちの課でもそういう動きをキャッチしていなかったのにだ。但し、何年も前から張り付いていた連中が、ここ数ヶ月の間で十人以上姿を消したから、何かをするんじゃないかという懸念はあったけどな」

「やっぱり、柏原さんの方で自衛隊へ協力したとかではなかったんですね」

「そっちはどうなんだ?」

「上はどうか知りませんが、私の耳にはそういった話は入っていません」

「そうだろうな。テロ特措法には、警察と自衛隊が相互協力をするって事になってはいるが、現実にはそういう指示なんか出ていない。じゃあ、自衛隊の組織内に、捜査力を持ったセクションがあったのかって話になるが、そんな話なんか聞いた事も無い。それが、どうしてああも簡単に実行犯のアジトを発見出来たんだ?と言うより、北が実行犯だと思うか?」

「自爆で使用された爆薬と、テロで使われたものが同じ物だという調査結果が出ています。それに、工作員の死体は、柏原さんが確認したのでは?」

「ああ。だが、本当にそう思うか?河津、二人だけの話だ。本音を聞かせろ」

「……中国大使館がやられていなければ、北犯行説も肯けない事もありません。先ずそこが引っ掛かります。誇大妄想の気があるうちの課員の中には、アメリカ陰謀説を唱える輩もいますから、あながち北の説を否定し切れないところもありますけど」

 アイスコーヒーのグラスに挿されたストローを回しながら、柏原は肯いた。




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