1970年の亡霊
「……柏原さん、テロリストと断定された死体ですが、検死は習志野の駐屯地内で行われたんですよね?」

「そうだが」

「回収は?」

「自衛隊だ」

「まさか検死医も?」

 遺体の確認で習志野駐屯地へ出向いた時の事を思い出そうとした。

「検死されていない……一つとしてまともな死体は無かったし、爆発で吹き飛んで死んだ事には違いないからという事で、身許の確認作業しかしていなかった」

「法医学専門の医師は居なかったという事ですね?」

「自衛隊の医務官は居たが……」

「突入時の隊員達から事情を聞けませんでしょうか?」

「俺もその時の状況を知りたくて、死体確認に立ち会った自衛官に尋ねたんだが、話してくれたのは、特殊部隊員ではなく、別な自衛官だった」

「別な自衛官?」

「ああ。東部方面軍の内務班とか言っていた。遺体回収や現場検証などもそいつらが全部済ましていて、習志野署の連中は、周辺の交通整理位しかやらせて貰えなかったらしい」

「じゃあ、襲撃後のアジトを直接見る事が出来た捜査員は居なかったという事ですね?」

 河津の問い掛けに、柏原は苦い顔をしながら肯いた。

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