1970年の亡霊
「……作為的過ぎませんか?」

 少し間を置いてから、河津が険しい表情で身を乗り出して来た。

「何でもかんでも北の連中をテロの実行犯と決め付けたがっている……。消息が不明になっていた工作員達が、ひょっとしたら本当に何かの計画を立てて、あそこにアジトを作って潜んでいたのかも知れません。そこを自衛隊が偶然発見し、すわ実行犯だと決め付け、対テロ部隊を出動させた。彼等は警察ではありませんから、いちいち証拠がどうとか関係無い。国家に対し、脅威となる可能性は未然に排除するという行動に出るのは、必然的です。ひょっとしたら、自衛隊でもアジトに潜んでいた連中が、テロの実行犯ではないと気付いていたかも知れません」

「実行犯とは違うと知っていて、それでも制圧に向かった理由は?」

「この数年、海外派遣等で自衛隊の存在がいろんな意味で注目を集めています。防衛庁から防衛省へとなり、国防を担う軍隊という認識に、国民が抵抗感を持たなくなった」

「自衛隊容認論だな?」

「ええ。今では、左翼政党までもが認めるようになった。そんな中で、今回の爆弾テロです。災害出動の後を受け、都知事権限でテロ対策部隊まで出動させた。自衛隊にとっては、更に自分達の存在を国民の間に植え付けられるまたと無い機会になった訳です」

「国内デビュー戦は絶対に勝利で、という思惑が働いたかも知れない、という訳か……」

「ええ」

 そこで河津は、それまで以上に声を潜め、

「腹、括れますか?」

 と迫った。
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