1970年の亡霊
 今日も一日、干からびた糸瓜顔の下山課長と過ごすのかと思うと、本庁の建物に入る足取りが重くなる。

 サイバーパトロール課の部屋へ入ると、早速下山課長から叱責を受けた。

「三枝君、遅くとも始業の十五分前には、自分の机の前に居なければならないと常々言っているだろう。今、何分前だと思っているのかね?」

 三枝は腕時計を見た。

 バカヤロー、十三分前じゃねえか……

 心の中でそう下山課長へ罵倒を浴びせていた。

 無言のまま自分の机に向かおうとすると、

「まだ話している途中だ」

 と言われ、今度は服装や髪型の事でねちねちと叱責された。

 確かに三枝の身嗜みは、警察官として見れば、まるでらしくない。

 耳を覆い、襟足まで伸びた髪は、ブラシなど通した事が無いような位に乱れている。

 最近の捜査員達は、昔に比べカジュアルな服装をするようになってはいるが、それは外回りに出る現場捜査員で、デスクに一日中へばり付く内勤者達は、ネクタイこそ義務付けられてはいないが、少なくともカッターシャツ姿ではある。

 三枝の今朝の服装は、ジーパンに派手なアロハ。

 採用された直後は、幾らIDカードを入り口で提示しても、その服装と容姿から、必ず呼び止められたものだ。

 十分ばかり下山のねちっこい小言を聞き、漸く自分の席に座る事が出来た。

 パソコンを起動させ立ち上げていると、向かい側のデスクに座る同僚の川合俊子が忍び笑いを堪えながら声を掛けて来た。

「今朝はこれまでの最短時間で開放ね」

 三枝はその声が聞こえないかのようなふりをし、パソコン操作を進めた。



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