1970年の亡霊
「加藤さん、過去に自衛隊がクーデターを起こそうとした事って無かった?」

「いきなり話を変えて来やがったな。映画や小説の世界じゃあるまいし、クーデターなんてえ話は聞かねえな」

「計画だけというのも無かった?」

「えらくこだわるな」

「喜多島関連の書物を漁っていたら、『喜多島事件と桜友会』という本を見つけたの。今は亡くなったフリーのルポライターが書いたものなんだけど、事件の影響で、桜友会という自衛隊OB会の一つが、クーデターを計画していた事があったという内容なのよ」

「桜友会てのは?」

「自衛隊少年工科学校卒業生のOB会。自衛隊には、他にも隊友会という自衛隊全体のOB会や陸友会という団体があるみたい」

「そういえば隊友会という名前は、メモリースティックにもあったな」

「ええ」

「あんたが何を言いたいのか、ここまでの話の流れで何と無く判ったよ。一連の事件は自衛隊のクーデターが絡んでいるって事なのか?」

「突拍子も無い話で驚いた?」

「いや、あんたと一緒だと大概の事には驚かなくなる」

 そう言って笑った加藤は、

「退院はするが、当分は休職扱いだ。捜査権限は無いが、自由に動ける。あんたが退院するまでに、クーデター説を洗ってみるよ」

 と片目を瞑ってみせた。
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