1970年の亡霊
 大理石のテーブルに置かれたファイルは、捜査官名簿のファイルであった。

「身内の不始末か?」

 手代木の総務部監査局は、警察官の不祥事や犯罪、不正等を捜査するセクションである。そういった意味から、こういう具合に内部告発を受ける場合も珍しくは無い。

「いえ。そうではありません。この捜査官は、局長が兼務される前に、変死した川合俊子というサイバーパトロール課の特別捜査官です」

 河津は、事故死扱いで処理されていた川合の死を、敢えて変死と言った。更に、三枝稔と三山百合のファイルを手代木の前に差し出した。

「これは?」

「元サイバーパトロール課課長三山百合警視が、何者かに、二度に亘って襲撃を受けた事件、現在は葛西東署扱いになって居りますが、実は、その前に起きた川合捜査官変死に関しては、ろくに調べられもせず、事故死で処理されて居ります。これは、葛西東署の初動ミスと言ってもいいでしょう」

「おいおい、滅多な事を言うもんじゃないぞ。所轄署の捜査に関して、部外者がミスだの何だのと口を挟むのは、如何なものかな」

「この二つの事件は、一本の糸で繋がっているのです」

「簡潔に説明してくれたまえ」

 河津は、事件の背景を語り始めた。特に自衛隊に関する部分を強調する事も忘れずに。

「この件を局長の采配で明らかにされませんか?兼務されているとはいえ、形の上ではご自身の課に降り掛かった事件です」

 既に面会時間の十分が過ぎようとしていた。
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