1970年の亡霊
 手代木は怒ったような眼差しを向け、腕を組んだまま河津を見据えた。その視線を跳ね返すように、河津も見返す。二人の間に漲った緊張感がふと途切れた瞬間、手代木の目が笑った。だが笑いとはいえ、何処までもギラついたものを宿していた。

「三山警視は、確か資料室長だったかな?」

「はい」

「人事部は馬鹿ばかりだな。私には彼女を元の職務に戻すだけの力は無いが、三山警視を事件のアドバイザーとして、応援に回す事は出来る。特に、川合俊子の事件が、三山警視銃撃事件と深い関係があるのなら、尚の事彼女の力が必要だ。しかし、まだ三山警視は現場に復帰出来るまで快復してはいないだろう。どうかね?」

「現場は無理でも、今局長が仰ったアドバイザーなら問題無いかと」

「後は実際に動く捜査員をどう選抜するかだな。サイバーパトロール課の捜査官達は、インターネット上では確かに最強の捜査官かも知れんが、直接の現場には無理だ。所轄に本部を置く訳にも行かんし、君ならどうする?」

「私の所と合同捜査という形を取られたら如何でしょうか?」

「テロ対策課とかね?」

「自衛隊内に何やら陰謀めいた動きがある……そう仮定すれば、名目が立ちます」

「君の言い方だと、それはあくまでも捜査上の名目だけ、と聞こえるが」

「そう受け取って頂いて構いません」

「それで君の所の捜査員が動かせるのなら、好きにしてくれたまえ」

 これが河津の狙いであった。
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