1970年の亡霊
 退院した三山は、横浜の実家へ戻っていた。久し振りに実家で寛いでいたところへ、本庁の人事課から電話が入った。

「一時的な措置になるが、元のサイバーパトロール課で復職して欲しい」

 そう人事課長から言われた時は、一瞬信じられなかったというのが、正直な気持ちであった。

 電話では、

「爆破テロでは、下山課長が被害に遭われた。一連のテロ続発で、優秀な上級職員が不足している。まだ銃撃の怪我から癒えていないかと思うが、デスクワーク中心で身体を慣らしながらやってくれないか」

 と言っていた。

 三山は二つ返事で了承したが、この事を聞いた母は、

「警察というところは、病み上がりの百合を殺す気なのかしら」

 と怒りを顕にし、復職を承諾した娘に呆れた。

 この措置が、河津の進言から手代木が手を回した事だとは、夢にも思っていない三山であった。

 早速、この件を加藤に知らせると、

「無理すんなよ、と言っても、あんたは無理しちゃうんだろうが。俺の方も知らせる事があるんだ」

 と、柏原という公安の捜査官が尋ねて来た事を話した。

「公安も、自衛隊関係を極秘に捜査している。死んだ川合俊子だが、虎の尻尾を踏んだのかも知れないぞ」

 三山は、自分の想像が少しずつ本物になって行くようで、何だか空恐ろしい気持ちになって来た。
< 226 / 368 >

この作品をシェア

pagetop