1970年の亡霊
 加藤は柏原との件を話し、公安部が自衛隊を極秘に捜査し始めていると伝えた。

(私も詳しく話す事があるの)

「判った。今から本庁へ顔を出すよ」

(いえ、こっちには来ないで下さい)

「どういう事だ?」

(用心の為です。それで手代木局長からセーフティーハウスを用意して貰いましたから、そこで会いましょう)

「おいおい、まるでFBIみたいだな」

 そう冗談を言ったが、心の中では、それ位の用心をした方がいいだろうと肯いていた。

 三山が指定したセーフティーハウスの場所は、加藤が今居る新宿から然程離れていなかった。

 私鉄を使えば急行なら二十分も掛からないだろう。

 加藤は新宿駅方向へ歩きながら、柏原へ電話を掛けた。

 自分の身柄が本庁へ戻された事を告げると、意外な事に彼も既にこの事を知っていた。

「外事部ってところは、身内の人事にも耳敏いんすか?」

(種明かしをすれば、テロ対策課の河津君が手品の種さ。彼と手代木局長はツーカーだ。それに、今回の捜査に関しては、課の垣根を越えてお互いに捜査協力をしている。三山君の件も含めてね。因みに、今から君が行こうとしているセーフティーハウスは、うちの持ち物だ)

「念の入った事で」

 電話を切った加藤は、河津の名前を聞いて、少し気が重くなっていた。
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