1970年の亡霊
 小田急線明大前駅を降り、代田橋方向へ向かうと、今時分の学生街らしく小ざっぱりとしたコーポやワンルームマンションが建ち並んでいる

 三山に教えられたセーフティーハウスは、一見すると古いただの木造アパートのように見える。だが、内部はまるで違っていて、外観からは幾つも部屋が分かれているように見えるのが、それぞれ繋がっていた。

 中に入ってみて、加藤がまず驚いたのは、部屋の所狭しに近代的な通信機器が設置されていた事だ。

 既に三山と河津だけでなく、柏原も来ていた。

「キャリア様のオンパレードの中に、俺のようなくすぶりデカが入ってもいいのかね」

「私は加藤さんを誰よりも頼りに思っているけど」

「あんたに頼られると、身体が幾つあっても足りねえ」

「傷はもういいの?」

 三山を助ける際に刺された傷を心配されて、加藤は要らぬ事を口にしてしまったと少し後悔した。

「まあ、俺のようなもんでも役に立つと言うなら、地獄の底まで付き合ってやるから、心配すんな。それで、見渡したところ、この四人しか居ないようだが?」

「捜査の全内容を知っている者という意味ではそうよ。勿論、本庁の捜査員が、その都度サポートするけれど、実際には本格的な捜査本部設置とはいかないから、手助けは期待しないで」

「本庁の人手不足も深刻なんだな」

「本当に信用出来る人間という意味でなら、その通りだな」

 河津が加藤に視線を合わせずにそう言った。


< 257 / 368 >

この作品をシェア

pagetop