1970年の亡霊
「三山君に言われ、手代木局長の所で下山課長自身の履歴も調べたのだが……」

 柏原の話も加藤からすればかなり衝撃的なものだった。

 下山課長は、大卒後に警察官となったのだが、年齢は二十五歳と遅かった。その理由は彼の履歴にあった。

 下山は高校卒業後、防衛大学を目指していたが、残念ながら不合格となり、そのまま一般入隊として陸上自衛隊へ入った。ここまでの経歴は然程珍しくは無い。国から学費のみならず給料まで貰える大学という事で、設立当初から入校倍率は高かった。

 入試に漏れた後、一般大学へ進む者が大部分ではあるが、稀に進学せずそのまま入隊し、一期目の任期を終えた後に再び防衛大学を目指すという者がいた。

 恐らく下山課長も当初はその目論見で、防衛大学を落ちた後、入隊したのではないだろうか。しかし、彼は二年の任期を終えると防衛大学を受験せず一般大学へ進んだ。

「これで法学部にでも進んで司法試験を目指したとかならまだ判るのだが、下山課長が選んだ学部は工学部だった。それが畑違いの警察官となった」

「二十五で一般大学から警察官になったのなら、高卒で拝命した連中と出世は変わらないですな」

 加藤の言いたい事は判っていた。

「何故警察官志望に変わったのか。そのヒントがここにあるんじゃないかな」

 河津が指を指したのは、蒔田登の双子の弟である典孝が下山の妹と入籍した日付であった。

「下山課長が大学三年の時ですね」

 謄本の記載事項を読んだ加藤が顔を上げた。

「うん。それとなんだが、下山課長が入隊していた時期と部隊を見たら、もっと驚く」

 そう言われた加藤は、三山が調査した資料へもう一度目を落とした。

「昭和四十四年四月、東部方面軍工科大隊朝霞駐屯地勤務……」

 加藤が、これが何か?という表情を見せた。

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