1970年の亡霊
「喜多島由夫が創設した剣の会が、よく自衛隊の駐屯地で軍事訓練をしていたのを入院していた時に関係書籍で知ったのだけど、訓練の為に一番出向いた先が朝霞だったのよ」

「と言う事はだ、この当時下山課長は剣の会と接触があったと?」

「それは判らない。でも、蒔田登の弟と後年義理の兄弟になった間柄よ。喜多島本人とは繋がりが出来なかったとしても、蒔田登と知り合った可能性はゼロではないと思う。寧ろ、この時に二人は親しくなったと考えた方が、その後の事を考えると全てが自然に収まるんじゃないかしら」

「兄の登と知り合った事で、典孝とも知り合えた……という事か」

「ええ。ただ、それにしても元々自衛隊志望だった筈の下山課長がどうして警察官の道を選んだのかが判らないの。それに、どうして下山課長が都合よくサイバーパトロール課へ異動出来のかという問題も残っている」

「本人が死んじまってんだ。真意は墓の中に持って行かれちまったって訳か」

「いや、加藤さん、もう一人真実を知っている人間が居ますよ」

「あ、典孝か」

 肯いた加藤に河津が微笑んだ。

「さっき話していたマルミツ何とかってえ会社の顧問を今でもやってんだっけ?」

「ええ」

「そっちの話は大体判った。俺の方はまだ何も判っちゃいねえが、手掛かりになりそうな当てはある……」

 加藤は柏原が疑問に抱いていた北朝鮮工作員の話と、川合俊子のメモリースティックに残された韓国人名との共通点がないかどうかを調べる為に、裏社会の人間と週末に接触を試みる予定だと言った。

「さすがですね。覚醒剤ルートから攻めてみるなんて」

 そう言った河津へ、

「あんたに誉められると首筋がむず痒くなっちまうよ」

 とおどけてみせた。

「さあて、これで段々正体が見えて来たぜ。こうなったら次に奴らが何かしでかす前に真っ裸にしちまわねえと。だが人手が足りねえ」

 加藤の言葉に三人共同感だと肯いた。


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