1970年の亡霊
 天井の高い体育館の中は、ある一角を除いて一切の灯りが消されていた。全ての窓に遮蔽物が施され、光が漏れないようになっていた。扉も一ヶ所を除いた全てが、鉄製の板で内側から補強され、開閉が出来ないように改造されている。

 暖房らしきものは無く、中に居た男達の誰もが防寒着で寒気を防いでいた。

 体育館の一角では、幾つかのデスクライトがラップトップのパソコンを照らし、反射した光に浮かび上がった液晶画面には、何処かの地図がナビゲートされている。

 ラップトップを操作している男は、インカムを付けながらキーボードを操作し、何処かに指示を出していた。

「……Cブロックは迂回した方がいい。待て、そっちへ人が向かっている。多分巡回だ。一旦、ビルの陰にでも身を隠せ」

「HブロックからEブロックへRJの車両移動。カバーにKKが向かう」

 GPS機能で映し出された画面には、無数の赤い点が動いていた。男達は片時もそれから目を離さず追っている。

 別なデスクでは警察無線と自衛隊無線を傍受していた。傍受した内容に沿って、男は更に別な者へ内容を伝えた。その光景は、さながら司令部のようなイメージを見る者に与える。

 二十人近い男達が一糸乱れぬ動作で動く様は、そこで立ち働く全ての者達に同一の意志が強く働いている事を窺わせた。

 その彼らが、一斉に入り口へ身体を捻り、緊張を全身に漲らせた。

 二人の男が、中年らしき見慣れぬ男を引き摺っている。

 年嵩の男が二人に近付いた。

「一体何があった?」

「怪しい男が建物をじっと見ていたもので……」

「始末したのか?」

「いえ。気絶させただけです。刑事でしょうか?」

 年嵩の男が、床にのびた中年男性の顔を覗き込む。

「そんなふうには見えないな。所持品を調べ、きれいに始末しろ」

 冷酷に言い放った言葉に、二人の男は身を硬くした。
 

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