1970年の亡霊
 自分の身体が誰かにまさぐられている……

「……!?」

 意識が戻るに従い、米田は自分が置かれている状況に戦慄を憶えた。

 口には猿轡を咬まされ、手首と足首はきつく紐のような物で自由を奪われていた。

 身体を弄っている男の目には、血の通った温もりというものが感じられなかった。

「意識が戻ったようだな」

「……!?」

 必死に身体を捩ろうとするのだが、何処をどう押さえられているのか、まるで身動きが取れない。

「財布の中にこれが」

 身体を弄っていた男が、別の男に身分証明書を差し出していた。

「区役所の職員か……」

 床に転がされていた米田は、自分をじっと見つめる男に哀願するような眼差しを送った。だが、その男の目は何の反応も見せなかった。

「一般人を始末しては、後々面倒になりませんか?」

 別な若い男が、米田を見下ろしていた男に言った。

 始末?始末って何なんだよ!?

 米田は何度も助けてくれと叫ぼうとしたが、虚しい努力でしか無かった。

「我々の存在を知られてしまった以上、始末するしか無い。大儀の為だ……」

「はっ……」

 大儀?何の事だ?わ、私は関係無い!何もしていない!

「暴れられると面倒だ……」

 その言葉に肯いた別な男が、右手に注射器のようなものを手にし、米田の横に腰を下ろした。

 や、や、やめてくれ!

 口の中が唾液でぐちゃぐちゃになった。

 首筋にちくりと痛みが走った。

 米田は、この先に起こる出来事を想像したくなかった。もし、自分の想像通りの事が起きたら……。

 涙で視界がぼやけて行くと同時に、彼の意識が遠のき、その後二度と戻る事は無かった。

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