1970年の亡霊
 泉佐野市の海側に造られた大規模変電所が供給している電力は、そこから目と鼻の先の海上に浮かぶ関西空港へ送られていた。

 高圧ケーブルは、空港島に造られた変圧所を通り、空港島全域の電気を起こしている。滑走路下に造られた無数の小部屋はそれらのケーブル通路になっていた。

 一つの部屋が大体畳二十枚といった広さになっていた。同じ形状で同じ広さの部屋が、丁度蜂の巣状に作られていると想像すればいい。

 全長四千メートルはあろうかという滑走路の地下。薄暗く、四方に開いた通行用の孔。この中に放り込まれたならば、大概の人間は迷ってしまうに違い無い。

 その地下通路を二人の男が、まるで通い慣れた道のように歩いていた。

 手に図面らしき物を持ってはいるが、二人は壁面にライトを当てて部屋番号を確認するだけで、間違う事無く目標地点へ進んでいた。

 この二人の男こそ、岡田幸則と要良雄であった。

「そろそろセンター通路の支柱だ」

 岡田の言葉に反応した要は、背中のDバックを下ろし、中から小型爆薬を出し防寒ヤッケのポケットへ移した。

 関西空港は大きな浮島になっているのだが、軟弱な地盤の場所ではジャッキアップ工法というやり方で島全体を支えている。そのジャッキアップされた支柱の数は全部で906ヶ所。

 岡田が手にしていた図面には、906ヶ所にも及ぶ支柱の場所が洩れなく記載されていた。そして、そのうちの何ヶ所かに赤丸がされていた。

 大規模構造物を破壊する簡単な方法は、それを支える重要なポイント部分の柱を爆破すればいい。何も大量の爆薬など要らないのだ。ただ、仕掛けるポイントを間違うと、そう簡単には破壊出来ない。精密な構造計算の上で、ポイント部分と適正量の爆薬を算出しなければならないのだ。

 
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