1970年の亡霊
「Jの12……そこだ」

 先を歩いていた岡田がライトで仕切られた部屋の隅を照らした。

 他の三隅と違って、そこだけ円柱形にせり出していた。

 要は支柱の傍へ行き、Dバックから電動カッターと小型発電機を取り出した。

 スタータースイッチを入れた要は、そのまま暫く様子を窺った。岡田が腕時計に目をやる。

 二分程経ったであろうか。天井を揺るがすような振動に少し遅れて、部屋全体に物々しい音が響いた。

 それは、離陸する旅客機の騒音であった。1メートルちょっとの厚みの天井を隔てた上は滑走路。

 要はその音に合わせて、円柱状のコンクリートへ電動カッターの刃先を当てた。

 幾ら精緻な計算で、支柱の爆破ポイントを導き出しても、分厚く塗り込められたコンクリートの上から爆破したのでは、威力は半分以下になる。鉄骨に直接爆薬を仕掛けた方が、一番効果が高い。

 高速カッターで30センチ四方の切り込みを付けると、次にセットハンマーと鏨でコンクリートを叩き壊し始めた。

 手際よく孔が開けられ、姿を見せた鉄筋を今度は電動カッターで切断する。火花と共に鉄が焼ける臭いが辺りに充満した。

 ここまでの所要時間は三十分と掛かっていない。それでも岡田が、

「少し予定時間をオーバーしている」

 と言った。

 要は無言のまま、完全に地肌を現した鉄骨に小型爆薬をセットした。彼が仕掛けた爆薬は、HMX爆薬に、燃料としてアルミニウム粉末と、成型用高分子ポリマーの末端水酸基ポリブタジェンを加えたもので、通常の爆薬に比べて衝撃は少ないが、爆発時に周囲の酸素を燃焼し尽す為、凄まじい熱を発するのが特徴だ。

「完了」

「さあ、残り9ヶ所だ」

 二人は次の目標へ向かった。

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