1970年の亡霊
 タカハシは片頬に笑みを軽く浮かべ、逸る加藤を制した。

「私はおたくが思っている程、身勝手ではない。少なくとも客がビールを飲み干すまでは付き合うさ。例え招かぬ客であってもね」

 加藤は座り直し、テーブルに置いた写真とメモ紙を指でとんとんと叩きながら、

「あんたが情義に厚いのはよおく判った。それを承知の上で頼むんだ。一言知っているか知らないか、ただそれだけでいいんだ」

 と腹の底から搾り出すように喋った。

「いいか、今この東京で、いや日本で何が起きていると思う?あんたが裏だか表だか知らないが、好き勝手に商売をやっている間にも、罪も無い人間が命を落としているんだ。俺達は、所詮地面を這いずり回る虫けらだ。だが、その虫けらにも命があって生きる権利がある。それはあんたらみたいな人間達にも言える事なんだ。裏社会でしか生きられない、今日を生きる為に犯罪を犯してしまう奴も居る。だからと言ってそういう役回りになっちまった人間を認めるつもりはねえ。だが、その心情は理解出来るし哀れだと思える気持ちもある。だがな、今俺が追い掛けている奴らには、到底許し難い気持ちしか湧かないんだ。これを見て、あんたが知っているかどうか、ただその一言だけでも言ってくれたら、そいつらの尻尾が見えて来るんだ」

「私が知っている前提でおたくは話しているが、これを見て私が知らないと答えたら?」

「次のパズルを見つけるヒントをあんたから教えて貰うさ」

「……カトウさん」

「俺の名前を知っているのか!?」

「何も知らない人間といきなり会う程、私は無用心じゃない……」

 そう言ったタカハシは、徐に写真を手にした。


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