1970年の亡霊
「……ユン・スギョン」

「え!?」

「こっちの男は……確かカネコという日本人名を名乗っていた」

「待て、ちょっと待ってくれ」

 加藤は、テーブルに置いたメモ紙に書き並べた名前の中から、該当するものを探した。

 調べているうちに、嫌でも頭に植え込まれた名前だ。直ぐに見つけた。

「今言った名前がここにある。その名前を名乗っている男が、今見た写真の男なんだな?」

「本名も知っているよ……」

 事も無げに言うタカハシに、加藤は返す言葉を失っていた。

「ユン・スギョンもカネコも、北朝鮮の奴だろ。この前習志野で死んだのをニュースで見たよ。新聞でも見た。だから見間違いは無い」

 川合俊子のメモリースティックに収められていた名前は、テロリストに仕立て上げられた北朝鮮工作員だった!

 公安でも把握していなかった変名を用い、彼等は本国へ資金を送る為に麻薬取引をしていた。

 柏原達と捜査をする事になったお陰で、北朝鮮工作員へ繋がったのだ。別々な事件を捜査していた公安と自分達だったが、自衛隊というキーワードを捜査の鍵とする事で、こうして一つの糸口を見つける事が出来た。

 タカハシは他の人間達の名前も、柏原が用意してくれた北朝鮮工作員達の写真へ印を付けてくれた。

「すまん。感謝するよ」

 深々と頭を下げる加藤へ、

「せっかくのビールが温くなっている……」

 と言って、タカハシは新しいビールと交換させた。この時、ビールを持って来た男が、

「又、テロがあったみたいだ。テレビ、全部そのニュースばかりだよ」

 と、他人事のような言い方で呟いた。

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