1970年の亡霊
 勤務に復帰した三山は、その後柏原が用意した明大前のセーフティーハウスへ連日のように詰めた。

 定時で本庁を出、真っ直ぐに向かう。最近はセーフティーハウスに泊まり込んでいる。

 テロ対策課の河津や、北朝鮮セクションの柏原も同じように詰めている。今回は捜査の性質上、やたら人員を増やす事も出来ず、それだけ個々の負担が大きくなっていた。勿論、全てを自分達だけで捜査している訳では無い。

 差し障りの無い部分では、それぞれの部下を動かしたりしてはいる。だが、このところの情報漏洩が頭にあり、どうしても自分達での極秘捜査に徹するしかなかった。

 その日も三山と河津がセーフティーハウスに詰めていた。

「この分だと今夜は、柏原さんは来られそうもなさそうね」

 腕時計を見ながら三山が誰に言うともなく言った。

「東部方面軍の内務班を洗っているようだよ」

「そう……」

 互いに視線はパソコンの画面に向けたまま、抑揚の感じられない言葉を交わした。

 三山も河津も、連日睡眠を削ってまで調べ物をしていたから、顔に疲れがありありと浮かんでいた。

 充血した目に何度も目薬を点し、凍らせたおしぼりを首筋に当てる。そうやって何とか睡魔をごまかしていた。

「……これ、JTCの事かな?」

 三山が調べていたのは、例のサイトの管理会社と、川合俊子が探り当てたSIMインターナショナルという会社についてであった。

 三山に言われ、画面を覗き込んだ河津は、

「どこから辿った?」

「不動産登記簿関係と、サイトが公開されていた時の発信場所。ある程度は前から判っていたんだけど、どうしても途中でぷっつりと糸口が切れていたの。それが、面白いところから繋がって……」

 そう説明すると、三山はもう一台のパソコンを操作し始め、ある企業のHPを画面に呼び出した。



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