1970年の亡霊

　呼び出し音が鳴る前に加藤は出た。逸る気持ちを何とか静めながら、加藤にあらましを伝えた。

（判った。俺もこのまま柏原さんの後を追うよ。今新宿駅だから、ひょっとしたらこっちの方が早いかも知れない。そうだ、こっちも収穫有りだぜ）

「加藤さん、銃は持っている？」

（あんた、一緒に現場やっていた時の事を忘れたんか？パソコンの弄りすぎで記憶装置が飛んじまったか。通常捜査でデカが拳銃ぶら下げるかよ。心配すんな。柏原さんと合流したら、所轄の制服から腰のやつかっさらうよ。じゃあ、電車が来たから切るぞ）

　わざと大げさに冗談っぽく言い、笑いながら加藤は電話を切った。三山には彼の気遣いが判った。加藤にしてみても、三山が自分を心から心配してくれているのが痛い程判った。あんなふうに冗談っぽく言ってやらなければ、どうにも気が重くなってしまいそうだったのだ。加藤達と一緒に現場へ行く事の出来ないもどかしさに、三山は身悶えしそうであった。ここから加藤達をサポートしたくても、何もしてやれない。そう思った三山であったが、ふとある事を思い付き、早速コンピューターに向かった。

　二人とも、電源だけは切らないでね……

　彼女は加藤と柏原のケータイ番号をコンピューターへ記憶させ、ＧＰＳ機能を作動させた。アメリカのドラマとかだと、こういう時は何十センチ単位の正確さで位置が判るものだが、現実にＦＢＩとかはあれだけの装備を個々に持たせている。日本では何故それが出来ないのか。答えは簡単だ。アメリカは軍事衛星を幾つも持っている。日本はＧＰＳ機能にしてもアメリカの衛星から情報を借りているのだ。自国の上に居る衛星ではない。アメリカ上空を軌道にしている衛星だ。当然、距離の関係があるから、位置測定を衛星が行っても大体の幅になってしまうし、リアルタイムな情報ではない。カーナビを例に挙げれば判る。高速を下りたにも拘らず、ナビではまだ高速を運転中になっている事がある。最近は自国の衛星も増え始め、自前の情報を日本も得られるようになって来た。

　考えるともなしにそんな事を考えていた三山は、ダウンロードした映像を思い出した。

　彼等が追い掛けていたＧＰＳ映像はリアルタイム……サイトの中継サーバーはペンタゴンの住所……

　まだ解析途中だった作業を三山は急ぎ始めた。