1970年の亡霊
 加藤は三山との電話を切ると、直ぐに柏原と連絡を取る為にメールを打とうとした。

 本文を打ち終わる前に、けたたましく着信音が鳴った。三山からのメールだった。マナーモードにし忘れていたものだから、周りから一斉に非難めいた眼差しを向けられ、慌ててマナーモードに切り替えた。

『ケータイの電源は絶対に切らないでいて。現場へ行く前にコンビニで電池式の簡易充電器を買い、装着したままに。現場へ着いたらカメラを起動させ、レンズが前を捉えるようにして。但し、落としたりしなように工夫して』

 えらい小難しい注文してくれやがる……

 加藤は苦笑いを噛み殺しながら、三山なりの考えがあっての事だろうと納得する事にした。

 柏原へは、同じ場所へ向かっている事を書き送った。

 送って間も無く、柏原から了解という返信が帰って来た。

 三山との電話での会話を思い出していると、車内のあちこちでどよめきが起きた。

 何事かと思い様子を窺うと、車内液晶にテロ報道が映し出されていた。その画面を見て、早速ケータイのワンセグでニュース番組を観たのだろう。

「横浜と反対方向で助かったな」

「ああ、あっち方向だったら多分電車から道路から、交通は全部ストップしていたぜ」

「やっと収まったかと思ったのによ。参っちゃうなあ」

「歌舞伎町の時の戦闘、観た?」

「おお、観た観た。マジでリアルだったな」

「あん時さ、俺とツヨシ達で新宿まで行って生で観たんだぜ」

「ほんとかよ」

「やっぱ本物はさ、音が違うよなあ」

 若い者の会話を聞いていた加藤は、無性に腹立たしくなって来た。

 てめえらみたいな能天気な野郎でも、俺達は護んなきゃならねえだよなあ……

 そうこうしているうちに、電車は綾瀬駅へ着いた。
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