1970年の亡霊
 目指す場所はそこから更にバスを利用しなければならなかったが、加藤は駅前でタクシーを拾う事にした。

 タクシーへ乗り込む前に、柏原から電話が入った。

(加藤さん、現場ではなく東綾瀬警察へ向かってくれませんか。そこで落ち合いましょう。話は私の方から既にしてありますから、捜査一課の瓜生課長を訪ねて下さい)

「判りました。今こっちは綾瀬駅ですから、一足先に着いていると思います」

(奴等がとっかかりです。慎重に、そして一気にやりましょう。ここで逃したら二度はチャンスを貰えないでしょう)

「判りました。そうだ、三山警視が現場では絶対にケータイの電源を切るなって言ってました。それとカメラを起動させて置けとも」

(成る程。判りました)

「成る程って、柏原さん、どういう事だか判るんですか?」

(恐らくケータイのGPS機能を使って我々の現在地情報と、カメラで現場の状況を把握する為でしょう。彼女らしい)

 加藤は柏原に説明されて漸く三山の意図が呑み込めた。彼女は我々の為に第三の目になってくれるつもりなのだ。

 十分ちょっとでタクシーは東綾瀬警察の前に着いた。

 身分を明かし、案内を請うと捜査一課長の瓜生自らが出迎えてくれた。

「柏原さんから連絡を受けています。加藤さんの分も防弾ベストと銃を用意しましたので、上の道場へ行きましょう。出せる捜査員の全てを今大急ぎで準備させていますから」

 瓜生課長は気負うでもなく、どっしりと落ち着いた物腰だった。

 部下に安心感を与えてくれるタイプの上司というイメージを受けた。

 道場へ案内されると、既にかなりの捜査員が装備の点検を行っていた。瓜生課長が若い刑事に加藤の為に装備を出すようにと命令した。

 柏原が息せき切ってやって来たのは、それから十五分程経ってからだった。


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