1970年の亡霊
 いつになく漂う緊張感に、集まった捜査員達も皆一様に身を硬くしていた。

 署長は結局、

「君達全員が、無事署へ戻って来る事を願う……」

 としか言えなかった。課長、係長クラスのベテラン捜査員も、拝命したばかりの新人捜査員も、この一言で困難さを充分感じていた。

「では、状況説明及び、各部署の割り当てを申し送ります」

 瓜生課長が柏原を呼び、捜査員達の前へと促した。

「現場は旧伊興北第二小学校。建物内には、マルミツ経済研究所の外郭団体であるNPO法人を名乗る者が複数潜伏していると思われます。現在時刻、午後十一時四十二分。現場到着予定を午前一時。突入予定は一時三十分とします。捜査令状と逮捕状も出ました。容疑は電磁的不正アクセス及び使用ですが、ご存知のように一連の爆破テロに繋がる一味である可能性が高い。銃の使用許可に関しましては、本庁で全面的に責任を取ります。一切の躊躇は自分のみならず、同僚をも危険に晒します。尚、先程我々の要請を受けて『チヨダ』がこちらへ向かって居ります」

 柏原が『チヨダ』が来ると伝えた瞬間、二十数名の捜査員達は一斉に「おお!」と歓喜にも似た声を上げた。

「最後に、必ず守って頂きたいのは、絶対に先走らないで頂きたいという点です。チヨダの他にも、本庁からの応援が来る事になって居ります。拙速と迅速を履き違えないように」

 柏原の話が終わると、それぞれの装備確認と持ち場の割り当てが瓜生から伝えられ、全員現場へ向かうべく駐車場に並んだ車両へ乗り込んだ。

 加藤は柏原と一緒に捜査車両へ乗り込んだ。

「チヨダが来てくれるんなら、鬼に金棒ですね」

「ヘリも来てくれる手筈だが、ただ時間に間に合ってくれるかどうか」

 一刻も早く現場へ突入したいのはやまやまだが、柏原が危惧しているように、一斉に事を起こさなければならない。

「瓜生さん、先に配置させた警邏隊はうまく住民避難を行えているでしょうか?」

 柏原が一番気に掛かけていた点であった。


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