1970年の亡霊
 草間は小型の発信機のような物を取り出した。それを扉に密着させた。彼が手にしているのは、ドイツ製の電磁波を利用した生体反応検出器で、コンクリートや鉄で遮られた内部であっても中に人が居るかどうかが判る。

 数秒して草間が二本の指を立てた。待機していた部下達の間に、緊張感が増した。

 草間は辺りを見回し、突入前に記憶した建物の構造と配置を思い出そうとした。

 見る限りでは、体育館の窓という窓は全て塞がれてあるようだ。こちらから中の様子が窺えないという事は、相手側からも気付かれない可能性がある。

 もう少し進めば校舎との連絡通路がある。体育館に二人居るが、彼等は校舎との連絡はそちら側の出入り口を利用している筈だ。或いは、反対側の校庭に面した出入り口を使っているかも知れない。

 いずれにしても、今の時点で中の二人を確保制圧する事は得策ではない。まだ潜んでいる筈の仲間達にわざわざ気付かれてしまっては、一網打尽とは行かない。

 草間は部下達に先へ進む事を命じた。それまでよりも一層慎重に前進した。

 内部から死角になりそうな所では素早く移動し、窓に面した部分ではゆっくりと匍匐前進を繰り返した。

 体育館の角に着いた。確認すると、図面通り通用路を隔てて校舎の出入り口があった。

 ガラスの扉になっていたが、割られた箇所だけ板が打ち付けられているだけで、特に遮蔽物は置かれていない様子だ。扉が施錠されているかどうかは、もっと近付かなければ判らない。

 体育館側に目を転じると、上部に小窓が付いた扉が見えた。観音開きになっているタイプで、ほんの微かに隙間から光が漏れている。

 草間が命じるよりも早く、部下の一人が扉に駆け寄り、中の様子を覗いた。部下が指を一本立てた。

 一人?もう一人は?

 死角に入っていて目視出来なかったのかも知れない。草間はインカムに口を近付け、

「スタンバイ。体育館にターゲットあり。突入時、同時に制圧します」

 と、深見へ報告をした。
< 303 / 368 >

この作品をシェア

pagetop