1970年の亡霊
 加藤が突入した校舎中央部から見て右側、体育館と隣接した側から激しい銃撃音がしている。

 その銃声は、加藤が居るフロアのもう一つ上、最上階から聞こえた。

 加藤は一気に駆け上がった。付いて来ているのは、所轄の捜査員が二人と、SATの隊員が三人だ。

 加藤は、彼等に射殺せず身柄の確保を優先だと怒鳴った。全員が、加藤の意図を理解した。

 四階の廊下に出た。捜査員の一人が、瓦礫の山を飛び越えようとして、流れ弾に当たった。幸い急所を外れ、防弾ベストで命こそ助かったが、肋骨の何本かは折れただろう。

 SATの一人が倒れた捜査員を壁際へ引き摺る。

「突き当たりの階段と中ほどの教室です。援護して下さい!」

 若いSATの隊員が加藤に言った。

「判った!」

 もう一人の捜査員と一緒に、銃弾を廊下の奥へ浴びせた。

 SATの二人が左右に分かれ、加藤に話し掛けた若い隊員が廊下の中央を駆けた。

「瀬尾!こっちだ!」

 教室からいきなり声を掛けられ、襟首を物凄い力で引っ張られた。空気を切り裂く音がし、引き摺り込まれた隊員の太腿を掠った。

「草間班長!」

「何人上がって来た!?」

「自分を含め六人です!」

 瀬尾が教室の中を見ると、血だらけになった男を囲むように体育館側から突入した隊員達が居た。


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