1970年の亡霊
「向こうの階段から撃って来ているのは自衛隊ですか?」

「多分な。あいつら、こっちが警察だと言ってもお構い無しだ。ぐずぐずしてはいられない。そっちはまだ奴らに踏み込まれてないんだな?」

「ここへ来るまでは大丈夫でした」

「よし、退却するぞ。長谷、西田、その男を担ぐんだ。瀬尾、先に行け。他は援護だ!」

 命じられた二人の隊員が血だらけの男を担ぎ、黒板側の入り口に屈んだ。瀬尾が体育館側の階段に銃を向け、飛び出すタイミングを計った。

「よし、援護だ!」

 もう一方の出入り口から草間らが一斉射撃を始めた。

「瀬尾、行け!」

 間髪を入れずに瀬尾は飛び出し、MP-5を連射した。その間に男を左右から抱えた隊員が教室を飛び出した。

「身柄一名確保!」

 加藤等が居る方へ瀬尾が怒鳴る。廊下の左右で瓦礫に身を隠していた加藤とSATの隊員が立ち上がり、一緒になって男を階段の陰まで運んだ。

 教室から草間達が駆けて来る。一人が背中を撃たれた。草間が防弾ベストのベルトを掴み、負傷した部下を引き摺った。

「こっちだ、もう少し!」

 加藤が手を伸ばし、草間の身体を引き寄せようとした。銃弾が瓦礫を跳ね上げ、欠片が加藤の頬を傷付けた。

「うりゃああ!」

 柔道の背負い投げのような格好で、草間と負傷者の二人ごと柱の陰へ倒れ込んだ。

< 313 / 368 >

この作品をシェア

pagetop