1970年の亡霊
 流れ出ていた涙を拭いもせず、三山は椅子に座り直した。

 乱雑に広げられたノートと、プリントアウトされた捜査資料を机の脇に寄せ、彼女は再び一心不乱となってキーボードを操作し始めた。

 彼女が途中まで解析していたのは、ここ一年ばかりの間の通信記録であった。

 その通信記録は、退役自衛官名簿と防衛省、陸自内部に丸光重工を対象にしたもので、更にその中から特定の人物の個人通信記録を解析したものであった。

 膨大な通信記録の中から、手掛かりに繋がるものを探し出すのは容易な事では無かった。

 が、彼女は何万何十万という通信記録をある一定の法則で分類して行く事で、少しずつ核心に近付いていると実感していた。

 幾つかのキーワードで分類して行くと、必ず特定の名前やアカウント名が現れた。

 そのキーワードの一つが【19701125】であった。

 三山からすれば、他のアクセスセキュリティの厳重さに比べて、このキーワードには単純過ぎるものを感じた。が、調べて行くうちに彼等の心情を垣間見た事で、納得をした。

 それは、故喜多島由夫へのひたすらな憧憬で、彼等の心情は子供のそれに似ていた。

 三山がそういう思いを抱いたのは、自ら喜多島由夫の全著作と関連書物を読み漁った中から生まれたものであったと言えよう。

 川合俊子が掴んだきっかけも【19701125】だった。彼等はあの日を四十年経った今も、引き摺り続けていたのだろうか。

 いずれにしても本当の名前とは違うから、今度はそれを実名での一般通信記録と照合して行った。何とか複数の人物が特定出来たが、まだ確証を得るまでには至っていない。

 しかし、三山本人はほぼ掴んだという実感を抱いていた。

 三山が辿り着いた特定の個人に、陸上自衛隊東部方面軍教育課、垣崎剛史の名前があった。



 
< 317 / 368 >

この作品をシェア

pagetop