1970年の亡霊
 三山が感じつつあった別な力……

 もし、今この場に彼女が居合わせていたのなら、驚愕よりもこの国に絶望感を抱いたかも知れない。

 その場所とは……。

 議員会館のとある一室であった。

「あの国はどう言って来ているのかね」

「現政権自体は何も気に掛けられる事はありません。中間選挙の記録的敗退で、その政務能力は失われて居りますから。我々の友人達との関係を今こそ以前のように戻す事にのみ、気を配られた方が宜しいかと」

「まるで我が国と同じだな」

「理想ばかり並べる者は、現実逃避の傾向がありますからな」

「その辺の話は後にしてだ、実際問題として一連の事が我々にまで及ぶ事は無いのかね?」

「一応、検事総長の方には手を打ってありますし、それとなく警察庁長官にも釘は刺してあります」

「うむ」

「それでも、今回の収束を図らせる為には、多少彼等に褒美を差し出さなければならないでしょう」

「どの辺の首まで差し出すつもりだね?」

「それは末端で充分かと。こういった事も考えてあの男に捨扶持を与えて居りましたから」

「君が言うのだから間違いは無いと思うが、昔から飼い犬に手を咬まれるの諺もある。うまくやってくれたまえよ」

 席を立った元総理大臣、それを直立不動の姿勢で見送る防衛政務次官。国民には清廉で反骨の政治家という顔を見せる与党官房長官と、彼を糾弾する事で前政権を復活させようと目論む野党幹事長。そして、欺瞞に満ちた笑みで会釈する日経連会長。

 人間の放つ醜い腐臭がその部屋には充満していた。
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