1970年の亡霊
 最初はクーデターという意識など園田には無かった。彼にとっては改革であって維新であった。

 前政権は確かに長く政権の座に座り過ぎてしまい、民意を汲み上げる術を持たず、利権まみれであったかも知れない。だが、少なくとも憲法改正や自衛隊法改正への声を自分達から上げた最初の政党であり、海外派遣への道筋を付けてくれた。

 尤も、その裏には常に己の利権と私欲が根底にあっての事ではあったが。

 大きな変化は去年の政変からと言っていいだろう。

 自由党が総選挙で大敗し、それに代わったのが今の民自党だった。新しい風が吹くものと期待した大多数の国民……しかし、風こそ吹いたが、それは国家を倒しかねない暴風であった。

 国家財政の危機を理由に、本来必要とされるべき予算は削られ、外交見識の欠片も無い者が首相を務め、結果日本外交は明治維新以降最も暗黒な時代を迎えてしまった。

 アジアの盟主であるとか、世界の経済大国とかなんてどうでもいい。

 自分の庭先も守れない、妻や子供を守れない者に、日本は成り下がってしまった。

 自分の国を、自分達の手で護る……

 ただそれだけの事でしか無いのに、この国はその本質を見失ってしまった。見掛けだけの繁栄に踊り、驕ってしまったのだ。

 無能無策な現政権を倒さない限り、国家の主権は風前の灯となってしまう。

 園田の焦燥感は、クーデター計画に没頭する事で消せたと思った。

 いや、オペレーション1から3までは、そういう気持ちでいられた。

 何処で道を違えたのだろう。

 園田には自問せずとも判っていた。

 利権主義者達の手先になってしまった事だな……

 彼は机の上に便箋を置き、暫し瞑目した後、少年工科学校卒業の文字が彫られた万年筆を取り出し、キャップを外した……。

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